お不動様のひとり言

お不動様のお言葉に乗せた、ほのぼの心嬉しいお話のブログ。

私は佛様の中でも、お不動様が大好きです。
お不動様のお名前の由来は、ゆるぎない悟りを求める心…ということです。

絵像では、燃え盛る火炎を背負い、眷属(けんぞく)の矜羯羅(こんがら)童子と、
制多迦(せいたか)童子を従えているのです。

このお不動様のお言葉に乗せて、
ほのぼのと心嬉しく豊かになるお話をしたいと思います。

「国語」って何なの?(2)

昨日話した「普遍語」「現地語」「国語」という三種の言葉。
この中の「国語」は、どうやって誕生したかについて話してみよう。

地球上に住まう人間の多くは、自分達が使用する「国語」を、自分が属する民族が古(いにしえ)より使い続けてきた言葉だと考えておる。
ところが実際は、幾つもの歴史的要件が複雑に重なり合い、相互作用することによって「国語」が誕生したと考えられる。
そこで生まれた「国語」は、生れた途端「国語」自体を下支えしていた歴史的事象やその成立プロセスが忘却せられてしまう。

そうこうするうちに、そこにある「国語」が、あたかも自分達の国民性(=民族性)の現れだと思い込むようになってくる。
いつしか「国語」は、「民族国家」の統一や独立及びその発展を推し進める働きを担って動き出すのである。
そうして国民文学が成立し、国民国家が生み出される。
これは「国家」は、自然に出来上がるものではない事を示唆しておる。

「国語」が成立する事と「資本主義」は極めて親和性が高い。
欧州でグーテンベルクによる印刷機が発明されたのが、十五世紀半ばのこと。
この頃既に欧州の資本主義は充分に発達しており、書籍が商品として市場で流通する事を可能にしておった。
これによって欧州では「市場原理」が働き、「国語」の成立を促す事となったのだ。

印刷機が発明されるまで、書物は「二重言語」を駆使できる僧侶など、ごく一部の人のものであった。
「書き言葉」である「ラテン語」と、会話する際に用いる「話し言葉」の二重言語である。

最初に印刷されたのは「グーテンベルク聖書」と呼ばれるラテン語で書かれた聖書だった。
その後もラテン語で書かれた様々な本が印刷され出版されたが…。
当然ながらラテン語を読める人は広範囲に点在したもののごく少数の人々に限られておった。

そこで新たな市場を掘り起こすため、人々が普段話している言葉で著された本が、「市場原理」の法則に則り、市場に出回る必要性に迫られた。

斯くして欧州における様々な地域の「話し言葉」が、「出版語」となったという訳である。
この場合の「出版語」というのは、「口語俗語」が「書き言葉」になり、言語的地位が上がった事を意味しておる。

欧州全土に数多(あまた)存在していた「口語俗語」が、いくつかの重要な「出版語」へと収斂(しゅうれん=収束する事)し、変貌を遂げた訳である。
則ち英語やドイツ語・フランス語・イタリア語などなど…の「出版語」に吸収された言葉達は、各々独自の空間的・時間的プロセスを経て、言語的進化を遂げたのだ。
これらの「出版語」を多くの人間が共にシェアするうちに、「国民国家」の基礎が出来上がっていったといえよう。

印刷技術の発明と資本主義の台頭。
そこに人類が欲する「言語的変容」という宿命性が加味され、「出版語」が「国民国家」の言葉として固定され共有された。
そうこうするうちに欧州で誕生した「国民国家」が、ナショナリズムとなって世界中に拡散していったのだ。

話は飛ぶが英語学習者を悩ませるものの一つに、「スペルと読み方が異なっている」事が挙げられよう。
昔々の英国では単語の発音とスペルは同じだった。
nameはナーメと読めばよかった。
ところがグーテンベルク印刷機を発明した頃、「大母音推移」(だいぼいんすいい)という現象が起こり、母音の読み方が大きく変化した。
長母音が二重母音に変化したのだ。
よって先に挙げたnameナーメがネイムと変化し現在の発音に至る。

しかもこの時期に印刷機が発明され、英単語が一般に流通する書物に、活字として印刷された。
印刷技術によってスペルが固定されたのだ。
ところが「大母音推移」のど真ん中にあった英国では、スペルが固定されたにもかかわらず、発音はどんどん変わっていった。

印刷技術の進歩によって、それまでのように発音が変わったからスペルもかえよう…という訳にはいかなくなったため、スペルと読み方が大いに異なる…という現象が生じたのだ。

何れにせよ多くの偶然や奇跡的な事象がシンクロナイズするうちに、言葉は言葉の枠を超え、「国民」を造る底力を発揮し続けておる。

「国語」は「国民国家」を創出すべく、意識的・無意識的の双方から成立するものであって、自然に成立したものではない…と言う事が出来よう。